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皮膚がん
【1】皮膚がんとは
皮膚は表面に近い部分から表皮(ひょうひ)、真皮(しんぴ)、皮下組織の3つの部分に大きく分かれます。さらに、表皮はいくつかの層に分かれ、表面に近い浅いところから順に角質層、顆粒層(かりゅうそう)、有棘層(ゆうきょくそう)、基底層(きていそう)と呼ばれます。真皮には、血管、神経、毛嚢(もうのう)、脂腺(しせん)、汗腺(かんせん)、立毛筋(りつもうきん)などの組織があります。
代表的な皮膚がんとしては、「有棘細胞がん(ゆうきょくさいぼうがん)」、「基底細胞がん(きていさいぼうがん)」、「メラノーマ(悪性黒色腫:あくせいこくしょくしゅ)」、の3つがあります。さらに、汗腺(汗を分泌する皮膚腺)、脂腺(皮脂を産生する外分泌腺)、毛嚢(毛穴の奥で毛根を包んでいる部分)などの皮膚の付属器にできる皮膚がんもあります。
皮膚の異常は内臓と違って目で見てわかりますので、皮膚がんは早期発見や予防がしやすいがんです。早期の皮膚がんであればほぼ100%治すことができます。「ほくろ」や「しみ」のようなものが、形や大きさが変化してきたり、感触が変わってきたりしたら、皮膚がんの可能性があるので、すぐに皮膚科にいって診てもらいましょう。 また、皮膚がんの前がん状態、つまり放置すると皮膚がんへと変化する「皮膚がん前駆症(ひふがんぜんくしょう)」というものがあり、「日光角化症(にっこうかくかしょう)」、「ボーエン病」、「パージェット病」などが、それにあたります。
このページでは、「有棘細胞がん」と「基底細胞がん」についてみていきます。
【2】「有棘細胞がん」と「基底細胞がん」
1.有棘細胞がん
有棘細胞がんとは、皮膚の少し深いところ(表皮の中間層)の有棘層細胞から発生するがんです。日本人に多い皮膚がんのひとつで、皮膚がん全体の約28%を占めています。
原因としては、まず紫外線の影響が一番です。長い間、皮膚に紫外線によるダメージが蓄積されることで、有棘細胞がんが発生するとされています。顔や手の甲など、太陽の光が当たる体の部分には発生しやすく、半数以上の人が、頭や顔に発生しています。
また、やけどや外傷の傷痕(きずあと)、放射線の照射による慢性放射線皮膚炎も原因とされています。さらに、子宮頸がんなどの発症と関わりがあるとして知られている「ヒトパピローマウイルス」も有棘細胞がんの発症に関わっているといわれています。
有棘細胞がんは、男性に多くみられます。高齢になるにつれて患者数は増加し、有棘細胞がんの約60%が70歳以上です。
2.基底細胞がん
基底細胞がんとは、皮膚の表皮の最下層である基底層(有棘細胞がんが発生する部分よりも少し深いところ)や毛嚢などを構成する細胞から発生するがんで、その多くは顔に発症します。基底細胞がんは、日本人ではもっとも多く発生し、皮膚がん全体の約46%を占めています。
原因としては様々ありますが、有棘細胞がんとほぼ同じで、紫外線、やけどや外傷の傷痕、放射線の照射が主なものとなります。
年齢で見ると、50歳ぐらいから増えはじめ、加齢とともに増加します。60歳代で全体の約25%、70歳以上が50%弱を占めています。性別では、男性にやや多い傾向ですが、男女差はほどんどありません。
【3】症状
1.有棘細胞がん
発生する場所や発生する原因によって様々ですが、一般にその場所の皮膚は赤くなり、盛り上がってきます。さらにがんが進行し大きくなると、カリフラワーのようにふぞろいな形で皮膚が盛り上がり、ゴツゴツとした形になります。触るとしこりを感じ、しこりの中心部がえぐれて、びらん(ただれ)や潰瘍が発生し、出血したりします。 また、有棘細胞がんになると皮膚の表面が弱くなってしまうので、細菌による感染をおこしやすくなり、膿をもったり悪臭を放ったりします。
2.基底細胞がん
初期の基底細胞がんでは、痛みやかゆみなどの無い黒色や灰黒色で光沢のある小さなしこりができるので、「ほくろ」とよく勘違いをします。これが、何年もの時間をかけて少しずつ大きくなり、中心部がえぐれて潰瘍となり、かさぶたが繰り返しできたり、出血しやすい状態となります。 70%近くが上下のまぶた、鼻、上唇の周りに集中して発生します。
【4】診断
皮膚がんの検査は、皮膚の病変を一部切り取って調べる「皮膚生検」を行い、診断が確定します。また、「X線CT検査」、「MRI検査」、「超音波検査」などの画像検査を行います。これにより、病変の大きさや深さなどの進行具合を調べることができます。
【5】病期(ステージ)
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0期
がん細胞はあるが表皮の中にとどまっている状態。これはがんの一歩手前の状態で、「表皮内がん」といいます。
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I期
がんの大きさが 2cm以下で、真皮だけ、または真皮から皮下組織の中にとどまっている状態。
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II期
がんの大きさが 2cmを超えているが、真皮、または真皮から皮下組織の中にとどまっている状態。
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III期
がんの深さが皮下組織を越えて、さらに深い部分(筋肉・軟骨・骨など)にまで進んでいる状態。もしくは、最初に腫瘍が発生した場所から最も近いリンパ節(所属リンパ節)に転移している状態。
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IV期
最初に腫瘍が発生した場所から最も近いリンパ節(所属リンパ節)を超えて内臓などに遠隔転移している状態。
【6】治療
1.有棘細胞がん
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(1)外科療法
腫瘍の周りの正常に見えるところを含めて、幅も深さも余裕をもって切除する必要があります。これは、腫瘍そのものだけを切除しても、再発や転移をおこす可能性があるためです。手術により皮膚の欠損が大きくなった場合には、植皮術をはじめ、形成外科的な方法で傷を治します。
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(2)凍結療法
液体窒素を使ってがん組織内の温度が-20~-50℃になるように冷やし、がん細胞を凍結壊死(えし)させる方法です。凍結療法は治療時や治療後の身体への影響の少ない方法なので、高齢の方や持病のために身体の具合が悪い方にも適しています。
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(3) 放射線療法
有棘細胞がんは皮膚がんの中でも放射線療法がよく効くもののひとつです。一般的に、X線や電子線を専用の器械を使って身体の外側から照射する方法がとられます。通常1回の照射は短時間で終わるため、放射線療法は通院しながら受けることも可能です。
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(4)化学療法
ある程度がんが進行している場合には、全身療法である化学療法が治療の中心となります。また、有棘細胞がんは頭、顔、首など人目につく部位にできることが多いので、切除する部分が少なくてすむように、手術前に抗がん剤でがんをできるだけ小さくしておく場合もあります。
2.基底細胞がん
手術が基本です。腫瘍の範囲より少しだけ大きい範囲で、さらに深く切除します。基底細胞がんの多くは、この手術で治ってしまいます。手術により皮膚の欠損が大きくなった場合には、有棘細胞がんと同様に植皮術をはじめ、形成外科的な方法で傷を治します。
【7】病期(ステージ)別治療
1.有棘細胞がん
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0期
腫瘍の辺縁から0.5cm離して、深さは腫瘍が露出しない程度に皮下脂肪組織を含めて切除します。 凍結療法や放射線療法など、手術以外の治療法を選択できる場合もあります。
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I期
腫瘍の辺縁から1~2cm離し、表皮、真皮、皮下脂肪組織を腫瘍とともに切除します。
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II期
腫瘍の辺縁から2~3cm離し、表皮、真皮、皮下脂肪組織を腫瘍とともに切除します。浸潤が深い場合には、皮下脂肪組織と筋肉の境界部にある筋膜という薄い膜も切除します。化学療法や放射線療法を併用することがあります。
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III期
腫瘍の辺縁から2~3cm離して切除します。腫瘍は皮膚を越えて浸潤していますので、筋肉を含めて切除したり、骨を削ったり、ときには患肢(かんし)の切断術が必要になります。また、リンパ節に転移がある場合は、所属リンパ節郭清を行います。III期もII期と同様に化学療法や放射線療法を併用することがあります。
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IV期
化学療法や放射線療法が中心となり、これに手術も組み合わせる集学的治療を行います。
2.基底細胞がん
基底細胞がんの治療は、病期に関わらず手術が基本です。理由としては、手術により治ってしまうケースが多いこと、また有棘細胞がんほど抗がん剤治療や放射線療法の効果が期待できないことが挙げられます。 ただ、基底細胞がんは高齢者に多いため、持病の状態や患者さんの体の状態により手術ができない場合は、放射線療法や凍結療法が行われることがあります。